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神奈川シリーズと銘打って、毎年勝手に送り付けている年賀版画ですが、どうやって制作しているの?と訊かれることもあるいっぽう、大して専門的でもないので、制作風景を自慢できるような代物でもないのですが、まあ、割と簡単に作っているんだな、というところを紹介しておこうかなと思います。
毎年の作品集はどうぞこちらをご覧ください。
今回は2023年の「城ヶ島」の制作風景を紹介します。
神奈川シリーズですので、題材は神奈川県です。このテーマで30年以上続けているわけですが、そんなに題材あるの?と疑問に思われるかもしれません。でも結構あるんですよね。基本的には風景を取り上げていますが、横浜、川崎といった都市圏をはじめ、湘南、三浦といった海岸風景、箱根や湯河原といった景勝地、丹沢といった山岳地など、名所にはこと欠きません。また、単なる自然の風景にとどまらず、建造物や公園など風景に密接なものも多く取り上げています。今のところ人物や工芸品などは取り上げていませんが、こういったものも含めれば題材は無限です。
今回の題材は三浦市にある城ヶ島が題材です。
城ヶ島の紹介についてはこちらをご覧ください。
題材はすべて実際に行ったことのある場所、自分の目で見た場所にしています。その場でスケッチすることはありませんが、自分の目に焼き付けたものを取り上げるようにしています。
自分の記憶と参考写真などからデザインを構想します。写実画ではないので、版画に合うように適宜デフォルメしていくことが求められます。対象の趣旨を尊重しつつ、加筆と省略を考えます。基本的な戦略は「簡素化」です。多色刷りとはいえ、彩画ではないので使用する色は極力抑えます。また葉書サイズという制約上、詳細もなるべく集約します。
デザインが決まったら、下書きをします。
版画は、基本となる骨版(主版)と、色付けのための色版によって構成されます。まずは骨版(主版)を意識して下書きします。
黒い部分が彫り残す部分、白い部分が彫る部分(着色する部分)になります。
版画ですから、版は裏返しの絵になります。
完成した下絵の上にトレーシングペーパーを載せて固定し、彫の境界部分をなぞっていきます。
トレーシングペーパーを裏返すと、裏向きの境界線が現れます。
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版木に使われる木材にはいくつか種類があります。
木目の粗い細かい、木質の堅い柔らかいなどに違いがあります。年賀版画ははがきサイズのため、木目は細かく詰まったものが適しています。また、私の作品は絵が細かいので、ある程度堅さのある木でないと彫が崩壊してしまいます。
そこで私がよく使うのが朴(ほお)材です。目が詰まっていて、ある程度の堅さを持っているけど堅すぎず、という特徴です。
版木は骨版(主版)+必要数の色版を用意します。
先ほどの工程で下絵を写し取ったトレーシングペーパーを裏返し、カーボン紙を挟んで版木の上に固定、裏返しになった境界線を写し取っていきます。
これが骨版(主版)になります。
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彫に先立ち、彫り残す部分を黒く塗っておきます。こうすると、どこを彫るのかが分かりやすくなります。
使う彫刻刀はごく一般的なものです。小中学校で使うようなセット物と、パワーグリップなどを愛用しています。
主に使うのは、切り出し大(細かい部分)、丸刀大(広い部分)、丸刀小や平刀や三角刀(彫跡を残す部分)です。
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彫る順番は特にありません。その時の気分や手の疲れ具合なんかに応じて彫り進めます。
文字の周りは切り出し刀の小を使って凸彫します。
岩場の部分はゴツゴツした部分は切り出しや三角刀、丸い部分は丸刀、海は平刀を使って、彫跡を利用します。
木版は彫りすぎてしまうと元に戻せません。そこで、9割ほど彫った段階で、いちど試し刷りをします。
写真は仕上げに向けて追加で彫る部分に校正を施した状態です。これを2~3回繰り返します。
こうして骨版(主版)が完成となります。この骨版だけを使って単色刷りとしたり、色鉛筆等で彩色して仕上げる手法もありますが、今回はさらに色版を作っていきます。
色版は完成した骨版を利用して作っていきます。多色刷りの最大の敵は「ズレ」です。そのため、原画ではなく骨版の結果を利用します。
刷りあがった骨版を下書きとして利用します。工程は先ほどと同じで、トレーシングペーパーを使って裏返しの絵を版木に写し取ります。もっとも、すべてを写し取る必要はなく、その色版に必要な部分だけでOKです。
木版画には水彩絵の具を使います。彫った目の間に詰まってしまった絵の具を洗い流せるようにです。水彩画用の絵具でもよいのですが、版画用の絵具なら糊成分が含まれているので、絵具の食いつきがよいです。
版木への塗布には写真のような刷毛を使います。大きな版画であればローラーを使いますが、葉書サイズの場合には刷毛の方が扱いやすいです。
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今回の色版は2版です。
最初に岩場の部分をアイボリー(象牙色)で刷ります。続いて海の部分を水色で重ねます。
紙は和紙を使います。和紙には手漉きと機械漉きがあります。このサイズの版画の場合には、漉きムラの少ない機械漉きの和紙を使用します。値段も安いです。
そして最後に骨版(主版)を重ねます。骨版は黒で刷ります。
以上で出来上がりです。ズレは大敵と書きましたが、それが味になる場合もあります。最後に雅印を押して完成です。
お送りする100通以上の年賀状のすべてをリアルに刷るのは無理なので、完成した1枚をスキャナーで読み取ってプリンタで印刷しています。
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